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タンザニア(モロゴロ)での調査経験と現在のキャリア

阿部 亮吾(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科修了(2016年度))

私は現在、「クセになる、なめらかな書き味」でお馴染みの油性ボールペンのジェットストリームを製造及び販売する三菱鉛筆株式会社に勤めています。

ASAFASの博士課程前期では、タンザニアの地方都市モロゴロでの廃棄物回収システムを研究しました。私が研究を行っていた当時は、アフリカでの廃棄物の研究の蓄積は限られていて、化学系の成分分析を除けば、国際的な援助やNGOに主導されたプロジェクトを対象に、その成果を論ずる研究がほとんどでした。こういった研究では短期的で地域限定的な成果を報告する傾向にあります。調査地域のモロゴロもそのようなプロジェクトが入った地域の一つでしたが、私がフィールドに入った当時は、プロジェクトの実施から10年以上経過しており、プロジェクトでもたらされたアイデアやツールを生かして、モロゴロの独自の廃棄物回収システムが形成されていました。フィールドでは、こういった背景のモロゴロの廃棄物回収システムを回収主体別に調べ上げ、そのシステムの全体像を明らかにし、各主体の緻密な役割分担と、プロジェクトでは想定されていなかった各主体の流動的ながらも持続的な回収実態を論じました。

調査を行うにあたって、モロゴロにあるソコイネ農業大学の先生には市役所の担当者を紹介していただき、また調査内容に関して定期的に議論する場を設けていただきました。調査の方向性に迷うときもありましたが、モロゴロのことをよくご存知の先生からのアドバイスは大変興味深いものでした。実際の調査では毎日のように市役所の廃棄物回収トラックに乗り、廃棄物処理グループとともにリヤカーを引いて家々を回り、そして零細有価物回収者とともに麻袋を背負いながらペットボトルを拾い集めました。彼らと廃棄物に囲まれながらウガリを食べたのは、今ではいい思い出です。

三菱鉛筆に入社後は、筆記具の製造部門にて生産管理を経験し、現在は経理部にて海外販売子会社の会計実務を担当しています。地域研究とは縁がなさそうな仕事ですが、業務を遂行していく上での根本的な考え方はASAFASでの経験に基づいていると感じる場面が多くあります。私の場合は、あらゆる事象は可塑的で流動的なものであるという立場に立ち、新しいことに先入観なくチャレンジしていく姿勢が養われたと感じています。

会計の世界や製造の現場はルールが明確であり、ルールに逸脱するアイデアはなかなか認められません。日々決められた数量を納期通り生産することが求められる工場や、過去に実績のある会計的解決方法を是とする実務の現場では、この考え方から抜け出すことは簡単ではありません。しかし私はモノづくりの在り方や会計の考え方は時代の流れに合わせて変化していくべきと考えているため、新しい生産設備の打診や海外販売子会社の新しい提案を積極的に取り入れ、吟味するようにしています。このような意見を通すためには、実現した場合に得られる定量的・定性的なデータを多面的に収集及び分析し、その必要性を論理的に組み上げていく必要があります。新しいことや現地の事情に常にアンテナを張り、アイデアとして客観的に構築していく過程は、私がタンザニア・モロゴロでの調査を含むASAFASで過ごした2年間での経験に通底していると思います。こういった過程は非常に工数がかかるため敬遠されがちですが、この過程を楽しむことができるのも地域研究を経験したおかげであると感じています。

(2023年3月時点)

各家庭から回収した廃棄物を収集場でまとめている様子