タンザニア・ザンジバルでのフィールドワークとキャリア構築
和田美野(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科修了(2015年度))
私は、大学院ではタンザニアの島しょ部であるザンジバルにおいて、カラギナンと呼ばれる海藻の養殖に関する研究を行いました。現地調査においては、効率的かつ効果的な調査を実施できている自信はありませんでしたが、時間をかけることはできたので、毎日毎日、村の家々を回りヒアリングをしたり、海藻の養殖場をひたすら歩いて実測したりして、調査を進めていきました。収集したデータが研究という文脈でどれほど役に立つものかは今でもなんとも言えませんが、それらのデータは自分が集めた自分だけのデータだと自信にはなりました。
タンザニアでの研究は、学部の4回生の頃に開始しましたが、現地での調査許可の取得ではザンジバル大学のシェイク先生に大変お世話になりましたし、研究を始めた初期に土壌調査をしていたときには、同じタンザニアのソコイネ農業大学の土壌学の先生や研究員の方々には土壌分析の基本を教えていただきました。英語もスワヒリ語も片言の私に、とても丁寧にかつ辛抱強く対応いただいたことは、非常に恵まれていたなと今でも思います。
就活についてですが、もともと、 修士修了後は就職をすることを漠然と考えていましたが、現在働いている会社に就職した理由は、アフリカでの経験とも少し関わりがあります。
アフリカに行くと中国企業の圧倒的なプレゼンスを感じます。日本企業も活動していますが、中国企業に比べるとその存在感はわずかです。それだけではなく、中国のほか、欧米のものもアフリカにはたくさん入って来ています。「日本製のものは良いものだ」と言っている現地の方も大勢いますが、それに対して日本企業の存在感があまりないように感じました。そこで、日本企業を手伝うような仕事がしたいと思うようになりました。自社でどんどん海外展開できるような力のある企業ではなく、海外展開に他の企業の助けがいるような企業の手伝いがしたいなとか、企業だけではなく中央官庁と働くのも面白そうだなとか、徐々に選択肢が絞られていきました。そして、いくつか面接を受け、実際に働いている社員の方とお会いする中で、この会社は肌に合っているかも、と思い現在の職場である日本総合研究所への入社を決意しました。入社後の仕事は上記のものとは全く異なりますが、最後の「この会社は肌に合っているかも」という感覚は間違いではなかったように思います。
就職活動中や、就職後は就職活動中の大学生の面談等を行うと「アフリカでの経験を今の会社でどれだけ活かせるのか・活かせているか」と聞かれることはしばしばあります。その点に関しては、私は自信をもって「はい、もちろん活かせます・活かせています。活かせない経験自体が無いです」と伝えることにしています。
基本的にすべての大学生に言えることですが、自身の研究や専門性をそのまま活かせる会社に出会う方が稀だと思っています。基本的には、活かしてもらうのを待つのではなく、活かし方を考えることが大切だと思います。普段の大学院の生活では当たり前となってしまって、感覚がずれてしまっているかもしれませんが、言葉のあまり通じない、行ったこともない地域に、単身で乗り込むことに喜びを感じ、好奇心旺盛に飛び込んでいける人材というのは、そう多くはないように思います。また、その右も左もわからない世界の中で、自分の目で見て感じたことを基に、研究の切り口を見つけるというのも、例え、外部からのサポートがあったとしても誰でもできることではないように思います。
それだけでも、アジア・アフリカ地域研究研究科にいる大学院生をはじめとして、アフリカでフィールドワークや留学を経験した皆さんは、他の学生が持っていない「活かせる経験」を持っているのではないでしょうか。私は、アフリカに渡航したこと、村に滞在したこと、海藻について研究したこと、ちょっとバラザで一休みしたこと、食べるなと言われたのに食欲に負けて食べた魚介類にあたって一晩中悶絶したこと、大学院時代のどの経験も、今活きているかと問われたら、胸を張って「活きています」と答えます。アフリカを経験した学生の皆さんには、闇雲に就活本等を読んで、バイトリーダーの経験とかをエントリーシートに書かないで、自分が大学院生活において全力で取り組んでいるアフリカでの研究に自信を持って、就職して社会人として、または、研究者として成長していかれることを期待します。
(2023年3月時点)